アート・スパイラル・トーク Art Spiral Talk
講師 林 浩平

第1回  2021年5月13日(木)

『稲妻捕り』の詩学 — 加納光於と瀧口修造

詩的精神の共鳴をめぐって

瀧口修造は、無名時代の加納光於の才能を見出して、タケミヤ画廊の個展を企画したうえに、晩年は加納と共同で、『《稲妻捕り》Elements』や『掌中破片』といった詩画集を制作した。加納にとって30歳年長である瀧口は、父親的な存在だったが、互いの詩的精神が結びあっていた、といえる。本レクチャーでは、前衛芸術界の精神的指導者であった瀧口修造の、加納をはじめ武満徹・宮川淳らに与えた父性的愛情と感化力を探り、また実験的な版画作品のほか色彩豊かな油彩作品を制作する加納光於の作品史を概説しながら、加納と瀧口の共同作品『《稲妻捕り》Elements』の生成過程を分析し、ふたつの詩的精神の共鳴のありようを考察する。(ちなみに本レクチャーは、富山県立美術館で開催された「瀧口修造/加納光於《海燕のセミオティク》2019」(2019年11月1日~12月25日)の記念講演として行ったものをベースとしたい。)

第2回  2021年6月19日(土)

周辺の画家たちの世界

— ディータ―・コップとモニカ・フェッランド

 批評家ジョルジョ・アガンベンと

「ホモ・サケル」や「例外状態」というキーワードで知られる哲学者・批評家のジョルジョ・アガンベンは、生政治学の分野のみならず現代美術についても発言し、美学関係の業績も持っている。若いころは、アビ・ヴァールブルクが創立したロンドンのウォーバーグ研究所で美術研究に従事したこともある。そのアガンベンの美学思想を著作『ニンファ その他のイメージ論』(高桑和巳訳・慶應義塾大学出版会)を中心に考察し、そこで採りあげられた現代美術家のディーター・コップDieter Kopp(1939~)とモニカ・フェッランドMonica Ferrando(1958~)の絵画作品を紹介したい。コップはドイツ人だが、初期からイタリアで活動し、故サイ・トゥオンブリらとともにローマ芸術家協会の中心メンバーでもあって、1993年のヴェネツィア・ビエンナーレに出品している。またフェッランドは、アガンベンの僚友の思想家ジャンニ・ヴァッテモの教え子の美学者だが、繊細な筆遣いによる魅力的な具象作品をたくさん描いている。

第3回  2021年7月15日(木)

模像(シュミラークル)の美学

—哲学ポルノ画家クロソウスキーとは誰か

ピエール・クロソウスキーPierre Klossowski(1905~2001)は、『わが隣人サド』や『ニーチェと悪循環』などの特異な哲学書や、ジル・ドゥルーズが「哲学とポルノの合体」と評した『歓待の掟』などの小説作品の著者である。だがあのバルテュスの三歳年上の実兄であることからもうかがえるように画家としての業績が近年注目されている。その画業はもっぱら色鉛筆を用いてのドローイングだが、モチーフは裸体による活人画である。神そっくりの模像を生産するというコンセプトに制度的なカソリック神学の乗り越えを企図した彼が、その哲学ポルノ絵画の表象に託したものは何だったか。皆さんとともに考えたい。